明石市子育て支援施策視察報告書
- まこと 吉野
- 2023年8月18日
- 読了時間: 15分
はじめに
本報告書は、水俣市議会議員である吉野が、明石市の子育て支援施策の視察についてまとめたもの。
視察の目的は、他地域の先進的な子育て支援施策を理解し、我が水俣市の子育て支援に活かすための情報収集。我が水俣市では”みんなが幸せを感じ 笑顔あふれる元気なまち”と方針を掲げており、その一環として明石市の”誰一人取り残さないまちづくり”の取り組みを学び参考にすることを目的としている。
視察日程は、2023年7月11日明石市 みんな公園視察
7月12日 明石市役所行政視察説明 こども支援センター視察説明
7月13日 広島原爆ドーム周辺見学 平和祈念資料館見学
参加者は 藤本寿子議員 杉迫一樹議員 高岡朱美議員 平岡朱議員 吉野の5名
視察先は明石市の市役所、子育て支援局及びいくつかの子育て施設。
当日は、明石市の市役所職員に案内いただき、明石インクルーシブ条例についての成立までの流れやその条例を元に行われている施策やその効果などについて学んだ。
その後、商業施設パピオス明石内にある、あかし子育て支援センターにて、子育て支援政策について研修を行った。
明石市のインクルーシブ条例の全体像
基本的な考え方(HPより)
①要支援時の確実な支援 社会的な孤立を防ぎ、すべての市民が安心して暮らせる社会を目指します。
②障害者等の社会貢献 「支援される人=弱者」と考えるのではなく、障害がある人たちが自ら考え、関わっていくことで、社会全体にとって良い効果を生み出すと考えます。
③インクルーシブ理解の広がり インクルーシブという言葉や考え方を理解してもらうため、わかりやすく伝えていきます。
④個性を生かした能力の発揮 この人の個性がそのまま尊重され、誰もができる範囲で最大限の力を発揮できるような社会を目指します。
主に取り組むこと(明石市HPより)
①あらゆる差別の解消(第8条) いかなる理由があっても差別は認められません。まちのみんなで、あらゆる差別を解消するために必要な取組を進めます。
②障害者等の参画(第9条) 障害がある人等と一緒に話し合いながら、取組を進めていきます。何が必要かを聞いたり、これまでやってきたことを検証したりします。
③情報の確保及び利用(第10条) 障害者等を含む誰もが、必要な情報が得られることができるように工夫することが大切です。市は多様なニーズを把握し、適切に情報を提供できるようにする必要があります。
④市、市民、事業者及び関係機関の連携協力(第11条) 市や市民、事業者などは、お互いに連携協力し、一体となって、インクルーシブな取組を推進します。市は中心になって、これらの連携を進めます。
明石市の子育て支援の全体像(HPより)
すべての子どもたちを みんなで 本気で 応援する
◎こども局
〇子ども健康課
こども健康センターを拠点に、母子健康手帳の発行や、妊婦・乳幼児の健康診査など、健康面からの子どもの育ちをサポート。
子育て世代包括支援センターでは、手帳交付時に専任の保健師と助産師が全ての妊婦と面接し、サポートしていきます。
〇児童福祉課
児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当、こども(乳幼児等)医療費助成、母子家庭等医療費助成、未熟児養育医療給付、母子父子相談等に関すること。
〇子育て支援課
子育て支援センター事業(地域子育て支援拠点事業)、あかしこども広場、ファミリーサポートセンター事業、おむつ定期便事業、産前・子育て応援ヘルパー派遣事業、子育て学習室、明石市こども基金、子育て応援企業の認定、赤ちゃんの駅、乳幼児期の子育てに関する情報提供や子育て相談 等に関すること。
・明石こどもセンター
明石こどもセンターは、子どもにまつわるあらゆる相談に応じています。
0歳から18歳までの子どもや保護者、地域からの相談に24時間365日にいつでも応じ、こどもの健やかな育ちの支援を行っています。
相談事業
こども自らの悩みや困りごとの相談
こどもの育児・しつけ、不登校の相談
こどもの性格や行動、非行の相談
育児疲れ
こどもの発育や発達、療育手帳の交付
言葉の遅れなど子どもの発達に関すること
心身の障害がある場合の発達や施設入所に関すること
虐待通報・対応
虐待相談ホットラインに関すること
全国共通ダイヤル189に関すること
児童虐待防止等に関すること
虐待防止、早期発見の取組
こどもすこやかネット(虐待防止のためのネットワーク強化)
ショートステイ事業の実施
虐待を受けたこどものための心のケアと親の援助
里親制度の推進
里親制度の啓発
里親研修、登録に関すること
里親家庭の支援
地域支援、広報啓発事業
出前講座の実施
〇こども育成室
利用担当 (幼稚園・保育所・認定こども園・小規模保育事業所への入所等)
運営担当 (幼児教育及び保育の指導並びに研修に関すること等)
施設担当 (就学前の教育・保育施設の整備に関すること等)
企画担当 (放課後児童クラブの入所等)
企画担当 (保育環境整備・保育士確保)
視察の詳細
明石インクルーシブ条例について
成り立ち
明石市は、障碍者施設担当を2014年に新設し、当事者を参画させる形で「明石市インクルーシブ社会基本条例」を制定した。当初は、障害者配慮条例として考えられていた。
しかしお金がかかってしまうと、予算の問題で優先度が下がってしまうという問題を避けるために、お金をばらまくものにならないように条例の内容を考えていった。その中で会話ボード スロープ 点字メニューなど いくつかメニューを作り、その中から助成するという形をとった。
2017年には啓発だけでなく、交流しながら啓発していくという段階になり
SDGs 障害者権利など、より幅広いフィールドで差別解消を目指したいという思いから
インクルーシブ条例を考えるきっかけとなった。
しかしコロナにより滞り、コロナによって”制限されるイメージ”をみんなで共有できた
それを制限されないというイメージで、インクルーシブ条例を制定した。
インクルーシブ条例は障害の有無は関係ないはずだが、背景となった条例が障害者向けのものだったから、検討会でディスカッションしながら条例をつくっていった。
取り組み
・”インクルーシブ”という言葉が分からないという意見が多かった。検討会の中でも、一つの言葉で言い合わせられる日本語がみつけられなかったので、インクルーシブを伝えていくことに力を使うことにした。
・パンフレットを作成し、小学生でもわかるパンフレットを目指した。パンフレットを配って終わりではなく、インクルーシブに愛着を持ってもらえることを目指した。
LGBTQに関する取り組み
明石市はLGBTQに関する取り組みも積極的に行っている。2018年には「あかしジェンダー平等の推進に関する条例」を制定し、パートナーシップやファミリーシップ制度を整備した。また、学校との連携や職員の教育などを通じて、ジェンダーに関する理解を深める取り組みも行っている。
きんもくせいプロジェクトについて
男性管理職が多くなると進まなかったが、横断的に女性管理職の方が進めた
そのことが意思決定におけるジェンダー平等にもつながった
配布から相談支援につなげる(必要な場合の背景が大事)
モデル事業から拡大していった
・小さく始めて需要があれば拡大していく
自分で用意すべきという意見が根強い(男性)
・そのことに対しても校長となるべく丁寧にキャッチボールすることで全校実施できた
子育て支援施策について(Q&A方式)
Q.明石市の子ども・子育て政策の考え方について
A.子どもを核とした街づくり、すべての子どもたちを、寄り添って本気で応援する。それを街のみんな(地域・行政・ボランティア)で
行政目線、親目線でなく、当事者(子ども)目線で行う
Q.子育て関連の施策を行う以前と比べたとき、周りにどのような違いが生まれたか
A.はじめは子どもにばっかり、と言われていたが、10年で0~5歳だけでも1500人くらい増えている。市民も、増えてきたら肯定的になってきた
Q.子育て環境における評価項目の設定はあるか
子育て支援政策の策定や改善の過程はどのような流れか。市民や専門家の意見はどれほどの人数や頻度で取り入れているか。
A.評価項目の設定は特にない
市民の意識調査を5年に1回行っている。その中で、子育て環境がいいと思うか。という項目が50%から75%になった。
この項目は子育て世帯以外の全世帯にきいているので、その中でこの数字はかなり高いと考えられる
A.政策は前市長のトップダウンだった。執行部では市長の考える政策に対して予算の都合上、現実的ではないという資料を作っていた。前市長は個人的なネットワークをもっていたり、企画力があったためそこから政策に反映されていた。
Q.子育て世帯が明石市を選ぶメリットは何があると考えられますか?選んだ世帯からはどのような声がありますか?
A.
1.交通の便が良い、明石市内に職がなくても通勤圏として住む
2.神戸と比べて土地が安い
3.子育て支援が充実している(それが理由できたわけでなくても、すごく安心したという声があった)
4.多子世帯は2人目以降保育料無料も選んだ理由
Q.様々な子育て支援事業を実施するにあたって、優先順位はどのようにつけるか
A.トップダウン(前市長のやりたい順で決定していた)
その中でもすぐできるもの、できないものがある(無償化はすぐできる)がおむつ定期便は企画から1年半から2年程かかっている。また、お金の都合でも決まる
Q.子育て支援事業の財源を確保するために見直した事業は何でしょうか
A.H26年度事務事業見直し54件。補助系を廃止 第三セクターの削減
5つの無償化に際して
・地域手当、持ち家手当を削減
・人口を30万超えると事業所税がとれるようになるため、人口が増えると財源が増えるという流れ
Q.わくわく地域未来塾について
A.小学校3年生は差が大きくなるのが顕著 国語、算数について大学生ボランティアに各行学校工区で募って行っている 小学校3年生夏休みから3月の間
成果について確認できるデータは無い
Q.こども財団についての経緯など
A.より一層子どもに特化した団体を作った方がいいのではないかという考えから設立
子ども食堂を全小学校区に 子育て支援に対する活動 行政に比べてフットワークが軽く、ネットワークづくりが早いと感じている
Q.この10年間の人口の社会増について
A.この10年でトータル8857人増 社会増に関しては1万人程増えている。
Q.人口が増えることによる住宅対策は何かありますか?
A.定住した人へお金をあげたりなどはしていない。
Q.明石市役所に就職希望が多いときいているが、ほかの自治体にない職場環境づくりをしているか
A.職場環境は特に良いとは思わない。面接重視で公務員試験対策が必要ない事が大きいのではないか。倍率は100倍から30倍
Q.待機児童問題についてはどのような対策を行っているか
A.保育士への待遇を厚くして、保育士を倍以上に増やした。需要が多い仕事にはその分報酬も厚くなっていっている
Q.子ども食堂を全校区に行ったのはどういった経緯か
A.子ども食堂を貧困対策と考えていない。こどもが1人で自分の足でいける、居場所づくりという考えで行っている。明石では小学生は校区外に出てはいけないというきまりもあるため必要だった
Q.現場と市役所との連携などはどのようにして行われているか
A.一例だが職員が別の用事で学校に話しをしにいった時に、こういうことをやりたいよね、というものを実際に行ったりしている。現場に赴く機会が増えて、話しをする機会が増えたことが施策につながっているという事を感じる。
こどものことをみんなで、本気で応援する。という理念通り、市役所にもまかせきりではなく、お互いにやれることをやるという雰囲気がある。
明石市の担当者から聞いた話や、視察時に感じた印象、学んだこと
条例を作ることで何が変わるのか
・職員の意識が変わる事が大きい。検討会の中で当事者の生の声を聴くことが多くなる
・庁内のいろんな部署の方にグループディスカッションに入ってもらった
・そのことで、当事者の方の声を身近に聞く機会が増えることで、寄り添う気持ちが生まれた
施策に対する意識
全ての施策に目標を設定して、それをとにかく達成する。という意識を持っている
例えばきんもくせいプロジェクトでは、明石市内の全ての学校で行うというものが目標だった。その目標の為にやれることをなんでもやる
明石市で出来ることは日本全国どこでもできる。まずは明石がやってみせて全国にひろげていきたいという泉前市長の思いがあるという話しも聞かせてもらった。
各条令も市に合わせてかえて使ってよいということだ。
職員の意識
明石市長の元で働くのは楽ではなかったが、間違った事は言っていなかった。自分の為ではなくとにかく市民の為に一生懸命だった。仕事が増え、移動も年に数回ある事もある。それでもきちんと市民のためにそうしているというのが分かった。
一方で、職員全員が全員同じ方向を向いていたとも言えなかった。予算を削られる部署は色々思うこともあったのでは無いか。
学んだポイントと課題
明石市の施策から学べたことや新たに感じたこと
とにかく当事者の目線を意識して施策しているという事を強く感じた
当事者から上がってきた困りごとを、やれることはなんでもやるという意識が強い
そして何より大切なのは、当事者と話しをする機会を沢山設けて、顔見知りになることで親身になって考える事ができるようになるという点
特に管理職が当事者と話しをする機会を増やしたとの事だった
当たり前だが市役所の職員も、市民も同じ人間。
同じ目線で話す機会を増やすことでお互い話しやすくなる
その流れも条例を設定したところから意識が変わり、機会が増えたと明石市の職員からの回答があるため、条例が課題ではないかと考えた。
水俣市への提言
明石市の施策をどのように水俣市に導入・適用できるか
水俣市の理念は”みんなが幸せを感じ 笑顔あふれる元気なまち”
しかしこの理念を元に作られた条例は無いように思う
わたしが勉強不足なだけかも知れないが、水俣市の理念を元にした条例を考えるとどんなものになるのか。一度考えてみるのが良いのではないだろうか
明石市のインクルーシブ条例など、そのまま使ったり、市に合わせて変更して使ってもらって良いと言われているので参考にして考えてみてはどうか。
まとめ
視察の全体の感想やまとめ
明石市の公園や、子育て支援センターそういった施設の見学もさせてもらったが、色んな箇所に誰でも受け入れてくれるという安心感を感じた。
もし困った事があったとしても、聞いてくれそう、力になってくれそう。そういった心理的なハードルを下げるためにどういったことが出来るのかを考えるきっかけになった。
明石市職員の場合はやはり条例を考えたタイミングが大きな転換点のようだ。
地域の方と話しをする機会、悩みを聞く機会を増やし、具体的な目標を設定し、実現のためにどんなことができるかを考える。その過程でまた地域の方と接する機会も増えるという良い循環が生まれていた。
そしてインクルーシブの考えを、実践を通じて当たり前にしていく事が大きな意識改革につながっているようだった。何より目標に対しての結果を重要視していた。
写真や資料など
みんな公園みんな公園内にあるスペース子育て支援センター(パピオス明石内)市民は無料で使える室内遊具施設幼児・児童用の図書室 子育て相談、悩み相談の場所を兼ねている。スタッフは全員保育士の資格有一時預り専用の保育室ユーススペース内の掲示ユーススペース(若者の居場所を提供)一部の人ではなく、みんなが安心して過ごせる空間を目指す配慮や工夫を感じたパピオス明石内
明石市の待機児童対策 2023.7.19現在
明石市 保育所等整備に関する予算及び施策
① 保育所等整備
保育所・認定こども園・小規模保育所などの施設整備について、国の補助金に加えて市の独自補助を実施。
→ 国庫補助金として「就学前教育・保育施設整備交付金」、「保育対策総合支援事業費補助金」を活用。市独自補助は国費の財源なし
② 既存施設改修費補助金の交付
小規模保育事業所等を整備する際に、既存物件が児童福祉施設設置の要件を満たしていないことが多いことから、既存物件の改修等に係る費用の7/8(上限4,000千円)を支給(対象は国の補助対象外部分)
→ 国庫補助金活用なし
③ 土地賃借料補助金の交付【H30~R4】
新たに保育所等を設置する際に、土地を賃借する事業者が多く、事業開始当初の経営を逼迫していることから、1,200千円/年を上限に最大5年間補助。
→ 国庫補助金活用なし
④ 企業主導型保育事業に対する補助金の交付【H29.9~】
国(内閣府)が進める企業主導型保育事業所を市内でも推進するため、一定の要件を満たした事業所に対して本市独自の補助金を交付。
→ 市の独自事業には国庫補助金活用なし
⑤ 緊急的な一時預かり事業の実施【H29.10~】
待機児童に対し、早急な受け入れ場所を確保するため、保育所等への入所が決まるまでの間、市の施設等を活用した緊急的な一時預かり(定期利用)による保育サービス(1歳から3歳児対象)の提供を実施。
→ 国庫補助金として「子ども・子育て支援交付金」を活用
2 保育士確保に関する予算及び施策
① 保育士の処遇改善の実施
ⅰ 処遇改善の実施【H29.1~】保育士への処遇改善を実施した私立保育所等に対し、月額給与増額分の1/2、10,000円を限度に助成
→ 国庫補助金活用なし
ⅱ 保育士定着支援金の支給【H30.10~】採用された保育士が長く働き続けることができるように、採用後3か月経過で10万円を支給、採用後1年経過から6年経過まで毎年20万円、7年経過すると30万円、最大160万円を支給。いずれも、本人に市から直接支給。※3か月経過分は令和2年10月から開始
→ 国庫補助金活用なし
ⅲ 保育士宿舎借り上げ支援【H28.12~】国の補助制度(補助割合:国1/2、市1/4、法人1/4)を活用し、市内民間保育所等が新規採用した常勤保育士等のための宿舎を借り上げる場合に、採用日から5年までの保育士を対象とし、月額57,000円を限度に、その費用の全部又は一部を補助。
→ 国庫補助金として「保育対策総合支援事業費補助金」を活用
② 私立保育所等見学バスツアーや保育士就職フェアの開催【H28~】
保育士としての就労を希望する方に対して、民間保育所等と保育所等見学バスツアー(計4回)や合同就職フェア(計3回)を共催し、潜在保育士の掘り起しや新卒保育士の就労に繋げる。市や保育士総合サポートセンターのホームページ、駅構内等へのポスター掲示、養成校訪問等、積極的なPR活動を実施。
→ 国庫補助金として「子ども・子育て支援体制整備総合推進事業費補助金」を活用
③ 保育士総合サポートセンター【H30~】
平成30年6月1日から、保育人材の安定的な確保のため、保育士の就職・復職支援を行う無料就業支援事業を実施。市立保育所長OBであるコーディネーターがじっくりと話を聞き、市内の保育所等に就労を希望する潜在保育士等の就職支援・職業斡旋を行っています。
→ 国庫補助金として「保育対策総合支援事業費補助金」を活用